肩関節のスポーツ外傷、障害shoulder joint
反復性肩関節脱臼もしくは亜脱臼
肩関節は上腕骨のボール(上腕骨頭)が肩甲骨のお皿(関節窩)に乗ったような構造になっています。正常では、関節窩の周囲を関節唇という軟骨が縁取っており、それに靭帯が付着することで肩関節を安定化させています。上肢を無理に後方にもっていかれるなどで一度肩関節の脱臼を起こすと、その軟骨が靭帯とともに関節窩からはがれてしまいます。はがれた部分をバンカート病変と呼び、それが緩んだ位置で付着した場合は脱臼、亜脱臼を繰り返す状態になってしまいます。その状態が反復性肩関節脱臼です(図1:バンカート病変)。特に10代から20代の若いスポーツ選手においては、いったん脱臼を来すと反復性脱臼、亜脱臼に移行することが多いといわれています。脱臼を繰り返して日常生活やスポーツ活動に支障がある場合は、損傷部位を修復したり、さらに補強したりする手術治療が必要になります。
投球障害肩(野球肩、肩関節唇損傷(SLAP損傷))
投球動作では、上腕骨が外転外旋してトップの位置をつくりますが、肩甲骨周囲などのコンディションが悪い場合は上腕骨の腱板付着部と関節窩の後上方の関節唇付着部がぶつかる現象(インターナルインピンジメント)が起こります。過度な衝突が繰り返されると、関節唇の損傷、剥離や腱板関節面側の部分断裂などがおこり、損傷した部分が挟まることで投球時の疼痛が持続することがあります(図2:投球障害肩)。損傷が軽い場合は、リハビリテーションによる肩甲帯や下肢、体幹のコンディショニングを行うことでインターナルインピンジメントを軽減することができ、症状が改善、消失して競技復帰可能な場合も多いです。一方、損傷が強く、コンディションが改善しても症状が持続する場合は、手術にて損傷部分をきれいにしたり、一部関節唇を修復したりすることでそれらが挟まらないようにし、術後のリハビリテーションを経て競技復帰を目指します。
肩腱板断裂
肘関節のスポーツ障害elbow joint
成長期内側型野球肘(上腕骨内側上顆骨端離開、内側上顆骨端核障害)
成長期の野球選手に起こる障害で最も多いのが内側型の野球肘です。投球により肘関節に外反ストレス(肘を外側に曲げる力)が加わりますが、様々な要因でストレスがかかりすぎると、肘関節内側(小指側)の靭帯(内側側副靭帯)が付着している上腕骨内側の成長軟骨(骨端線や骨端核)に障害を来し(図4:内側上顆裂離)、肘関節の内側の疼痛が起こります。一般には投球の休止と下肢、体幹、肩甲帯などの機能障害をリハビリテーションにて改善することで疼痛が軽減し、競技復帰が可能です。
成長期外側型野球肘(離断性骨軟骨炎)
内側型の野球肘と同様、投球により肘関節に繰り返す外反ストレスが原因で、肘関節の外側(親指側)の軟骨や軟骨の深層の骨組織(軟骨下骨)に障害を来す疾患です(図5:離断性骨軟骨炎)。症状が進行すると骨軟骨の遊離体(ねずみ)を生じたり、関節炎や変形による可動域制限をきたしたりします。現在では超音波エコーにて早期発見が可能となっており、早期の症例では投球の休止、リハビリを行うことで病変部の修復が期待できます。一方、診断された時にすでに進行していた場合は、遊離体となった骨軟骨の摘出や固定、場合によっては膝関節などから骨軟骨を移植する手術が必要となることがあります。
肘関節後方障害
(肘頭骨端線閉鎖不全、肘頭疲労骨折、肘関節後方インピンジメントなど)
内側、外側障害と同様、投球動作などにより外反ストレスや伸展ストレス(肘関節後方を伸ばすストレス)がかかることで、成長軟骨(骨端線)の閉鎖不全(図6:肘頭骨端線閉鎖不全)や疲労骨折、骨棘形成などを来します。一般にリハビリテーションによるコンディションの改善で症状が改善することが多いですが、難治性の場合は手術を行うことがあります。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
肘関節の外側には、手関節や指を伸ばす筋肉の根元が集まって付着しています。特に手首の関節をそらす筋肉(短橈側手根伸筋)の根元は腱となって上腕骨の外側に付着しており、同部への繰り返すストレスで炎症を起こしたり部分的に損傷したりして疼痛の原因となることがあります。安静で症状が落ち着く場合が多いですが、症状を繰り返し難治性となった場合は手術を行うことがあります。