肩・肘関節に対する手術治療shoulder / elbow joint
肩関節や肘関節の疾患は、リハビリテーションなどの保存治療が有効なことが多く、肩、肘だけでなく、肩甲骨周囲や体幹、下肢の柔軟性、機能が大変重要です。リハビリテーションで症状の改善が得られない場合は、それぞれの病態にあった手術治療を検討しますが、当院では可能な限り関節鏡を用いた手術を行っています。
また、どのような手術を行った場合でも、手術後は全身的なコンディションを改善することが大変重要であり、積極的なリハビリテーションを行うとともに、スケジュールにそった競技復帰をすることが求められます。
肩関節に対する手術shoulder joint
反復性肩関節脱臼
鏡視下バンカート法
全身麻酔下に関節鏡という内視鏡を用いて行う手術です。肩甲骨のお皿(関節窩)からはがれた関節唇および靭帯を修復する手術です。関節窩にアンカーと呼ばれる樹脂製、縫合糸製の「くい」を4本前後打ち込み、アンカーに付いている太くて強い糸(高強度糸)をはがれた関節唇に通したのちにしっかりと結んで縫合を行います(図8:バンカート修復術)。これらの操作を、関節の前方、後方に3か所前後の小さな切開を加えて行います。
手術後4~5日で自宅退院となる場合が多く、以後は近隣の施設でのリハビリを行います。手術後3週間程度三角巾で固定します。1か月程度でランニングなどが可能となり、2か月程度で日常生活動作での支障がなくなります。スポーツ復帰は種目により4か月~6か月後からとなります。
鏡視下バンカート・ブリストー法
反復性肩関節脱臼症例のうち、コンタクトスポーツ(ラグビー、柔道、レスリングなど)の選手の場合は、復帰後に再脱臼を来してしまう例が少なくありません。再脱臼を予防するため、このような症例にはバンカート法に加えてブリストー法による補強を行う手術を行っています。鏡視下バンカート法を行う前段階で、肩甲骨の烏口突起という骨を共同筋腱という腱を付けたまま先端から1.5cm程度骨切りし、関節窩(お皿)の前下方部に骨片ごとスクリューで固定します(図9:ブリストー法)。烏口突起の固定が終わったのちに、鏡視下バンカート法を行います。関節窩に腱が連続した状態の骨片を固定することで、前方への脱臼をさらに防ぐことができます。
入院期間は、鏡視下バンカート法と同様手術後4~5日が多く、手術後のリハビリも同様に行います。コンタクトプレーを術後3か月より徐々に開始し、術後4か月以降での競技復帰を目指します。
投球障害肩
鏡視下肩関節唇修復術
投球障害肩では、肩関節外転外旋時にインターナルインピンジメントが起こり、関節唇の剥離、断裂や腱板の部分断裂を来します。リハビリテーションなどの保存治療にて症状が持続する場合は手術を行います。手術は全身麻酔下に関節鏡を用いて行います。損傷した関節唇や腱板をきれいに切除して挟まらないようにします。関節唇のはがれ方がひどい場合は、数本のアンカー(太い糸のついた「くい」)を関節窩に1~3本挿入し、関節唇に糸を通して縫合を行います(図10:関節唇修復術)。投球動作で挟まったり、詰まったりしないよう、縫合処置は最小限に行います。入院期間は手術後4~5日で、手術後は3週間程度の三角巾固定ののちに可動域訓練を行い、3か月以降より軽いキャッチボール、6か月以降で本格的な投球を開始します。
肩腱板断裂
鏡視下腱板修復術
腱板断裂症例のうち、引っ掛かりが強い症例や断裂が大きく機能不全が強い症例では手術を行います。当院ではほとんどの症例で関節鏡視下に腱板修復を行っています。手術は全身麻酔下に行い、断裂した腱板を上腕骨に縫合します。骨に腱を縫い付けるため、アンカーと呼ばれる樹脂製の「くい」を骨内に挿入し、アンカーに付いた太くて強い糸(高強度糸)を腱板に通して縫合を行います(図11:鏡視下腱板修復術)。断裂の大きさや部位によりアンカーは3~4本使用することが多いです。
当院での入院期間は約2週間となります。手術後は肩外転装具を4~6週前後装着し、退院後は近隣施設にて少しずつ可動域訓練といったリハビリテーションを行います。日常生活に支障がなくなるのに約2か月を要し、本格的なスポーツ復帰は6か月後より可能です。
肘関節に対する手術elbow joint
成長期外側型野球肘(離断性骨軟骨炎)
鏡視下遊離体摘出術
離断性骨軟骨炎の病変部が保存治療でも修復されず、病変部が不安定となって疼痛や引っ掛かりの症状がある場合は、手術適応となります。病変の範囲が小さい場合は、関節鏡にて病変部や遊離体(ねずみ)を摘出する手術を行います。手術は全身麻酔で行い、肘関節に5~6か所の切開を加え、関節鏡で関節内を観察し、骨軟骨病変の状態を確認します。病変部や遊離体、滑膜炎を切除し、十分に洗浄します。
入院期間は、3~5日程度です。手術後は約2週間のギプスシーネ固定とし、以後は近隣施設にてリハビリテーションを行います。軽い投球動作や運動を2か月後より開始し、3~4か月以降での競技復帰を目指します。
骨軟骨柱移植術
離断性骨軟骨炎の病変の範囲が広く、上腕骨関節面の外側まで及んでいる場合は、骨軟骨の摘出だけでは回復が期待できないため、膝関節から骨軟骨を移植する手術を行います。全身麻酔にて関節鏡で関節内を確認し、病変部をきれいにします。その後肘関節外側を4㎝程度切開し、病変部を露出させます。病変の大きさに合わせて、同側の膝関節外側(お皿の骨のすぐ横)に切開を加えて専用の器械で骨軟骨の円柱(直径6~8mm、高さ13㎜程度)を取り出し、肘関節の病変部に1~3本移植します(図12:骨軟骨柱移植術)。
入院期間は5日程度です。手術後は2週間程度ギプスシーネ固定とし、以後近隣施設でのリハビリテーションを行います。術後2か月で筋力トレーニング、3か月より軽いキャッチボール、6か月より本格的な投球を開始します。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
鏡視下滑膜切除、直視下腱切除術
難治性のテニス肘で保存治療にて改善が得られない場合は手術を行います。手術は全身麻酔で行います。難治性のテニス肘では、肘関節内の滑膜炎や関節包の断裂、滑膜ひだの増生などがみられることも多く、関節鏡にて関節内を観察し、滑膜の切除を行います。軟骨の障害などがあれば処置を行います。その後に、肘関節外側に約3㎝の切開を加え、表層の筋膜を切開して深層を展開し、炎症を起こしたり部分断裂を起こしたりしている短橈側手根伸筋腱を露出させます。損傷した部分を切除し、十分にきれいにしたのちに周囲の筋を引き寄せて縫合します。
入院期間は3~7日前後で、手術後は約2週間のギプスシーネ固定とし、その後に可動域訓練を行います。2か月以降で手を使う運動を開始し、3か月以降での競技復帰を目指します。
変形性肘関節症、関節遊離体(関節ねずみ)
鏡視下骨棘切除、遊離体摘出術(クリーニング手術)
投球動作やコンタクトスポーツなどで、肘関節の軟骨の摩耗、骨棘形成、遊離体形成が起こり、リハビリなどの保存治療で症状が持続する場合は、関節鏡を用いた手術を行っています。手術は全身麻酔で行います。肘関節に5~6か所の切開を加え、関節鏡を挿入して肘関節内を観察し、滑膜炎や遊離体を切除します。骨棘は関節鏡視下にノミやバーなどを使って切除を行います。
入院期間は3~5日程度です。術後は約2週間のギプスシーネ固定とし、術後2か月前後から軽いキャッチボールや運動、3か月以降で本格的な競技復帰を目指します。